ブログ

高橋ウィメンズクリニックのブログです。

説明されない不妊治療のリスク(2012/7/12NHKニュースより)

本日2012.7.12朝7時のNHKニュースで、「説明されない不妊治療のリスク」についての報道がありました。本日患者さんから教えて頂いたので、朝のニュースを見直してみて、感想を述べたいと思います。確かに不妊治療でのリスクについては、現状では十分に伝わっていないと感じます。ただ、その原因が主に医療提供者側にあるかのような印象をもたれるのは非常に残念です。当事者としては、医療提供者側の情報の積極的な開示とともに、この報道を機会に、患者さんの注意も喚起されればと考えます。
まず最初に、不妊治療(特に体外受精)についての前提をお伝えします。
体外受精がおこなわれておよそ30年たちます。非常に新しい分野であり、いまだによく分かっていないことはたくさんあります。体外受精で生まれた方は、最高齢30歳程度であり、それ以上の年齢の方は世の中に存在しません。したがって安全性については、30年間のデータしか存在しないのです
一般的にも、新技術や新薬などでは安全性に関しては確立されてはいないのです。したがって体外受精などの技術に関しては、すべてのリスクが説明することは不可能であることをご理解頂く必要があるのです。
当クリニックのパンフレットにも書いていますが、30年間のデータしか存在せず、安全性に関しては確立していないのです。

医療従事者側からの感想を述べます。
まず、日本産科婦人科学会では、体外受精をおこなう方に対するパンフレットには、体外受精のリスクについての説明をするように、各施設を具体的に指導しています。したがって、皆さんが各施設から渡されているパンフレットには、必ずリスクについての記載があるはずです。今回を機会に,再度パンフレットを読み直してみて下さい。
「ニュースでは、胚盤胞の一卵性双胎のリスクは自然妊娠の3倍との説明でした。3倍とのリスクは、「胚盤胞での一卵性双胎は、胚盤胞による妊娠者の1%におこります」と言うことです。リスクの倍数を言うならば、その発生頻度も説明して欲しいと思います。あたかもたくさんおこるような漠然とした伝え方は、大きな混乱を招きます。
これが分かってきたのは、ニュースでも言われたように、「最近の事」なのです。したがって、今回の例のように、まだそのリスクが一般的な事となっていない状況では、一卵性双胎の可能性の説明がされていない状況が、医療提供者側の怠慢のように受け取られるのは非常に残念なことです。
なお、最近、当クリニックでも胚盤胞1個移植で、13年間で初めて、一卵性三胎が発生しました。発生頻度は0.1%未満と推測されます。このようなこともおこり得るのですね。例えば、このことを皆さんに説明することはおそらく少ないでしょう。すべてのことが説明される、ことは実際には困難なのです。

体外受精の一般的なリスク
皆さんに知っておいて頂きたい体外受精のリスクを、いくつかあげてみましょう。
1)体外受精での出生された方は、せいぜい30歳であり、生殖機能や老化の進行に関してのデータは30年間のみであり、それ以上のデータは存在しません。したがって、将来にわたっての安全性のデータは存在しないのです。それを前提に体外受精を受ける必要があります。今回の胚盤胞の多胎リスク情報も、「最近分かってきたこと」であり、今後もこのように新たに分かることは出てくるでしょう。
2)体外受精での出生児には、自然妊娠と比べて奇形の発生などはほぼ同じか、若干増加するとの報告が大勢を占めます。したがって、20歳までの短期的には体外受精は大きな問題はないとされます。
3)顕微授精は、せいぜい15年間のデータしか存在しません。奇形率や染色体異常は、自然妊娠や体外受精妊娠に比較して、1.5~2倍程度(1~2%程度の発生率)に増加します。20歳以上の顕微授精の安全性のデータは存在しません。
4)多胎妊娠は、双胎では単胎の4~5倍の事故(流産・早産・奇形・胎児死亡・脳性麻痺など)発生率、3胎では10倍の事故発生率に上昇します。日本産科婦人科学会では、移植胚は原則1個であり、多くても2個までと通達しています。このリスクをご理解下さい。双子をご希望する方が少なくありませんが、そのリスクについて知っている方は少ないのです。医学的には一人ずつ妊娠することが最も良いのです。不妊治療医師も出産までの事を考えて治療しています。我々の最終目標は、「妊娠」ではなく、「無事に元気なお子さんを抱く」事なのです。この点は、治療を受ける皆さんにも理解して頂きたいと思います。
5)高齢での妊娠(特に40歳以上)は、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)、染色体異常児の発生率の上昇、母体の脳出血・死亡、などのリスクが急上昇します。高齢での妊娠・出産は命がけなのです。これらは前兆がなく突然起こる事が多く、予防はとても困難なのです。

いずれにしても、新しい技術を受けるということは、リスクについてはまだ曖昧な点が新しいだけ多くあることをご理解頂きたいと思います。
ニュースでも、患者側も妊娠率については興味があるが、リスクへを知ろうとはしない傾向がある、旨の話もありました。
これを機会に、医療提供者側も新しい情報を積極的に発信し、受ける患者さん側もリスクにも目を向けていく必要があるでしょう。

一覧に戻る