No.12085 たぬ
高橋先生
いつもお世話になっております。このような場を設けていただき、ありがとうございます。男性不妊が主訴で、アメリカで体外受精中です。情報が少なく不安な中、こちらでのご回答内容は参考になるものが多く、大変助けられております。他院通院中の者で恐縮ですが、ご質問させていただけますでしょうか。私自身は甲状腺機能低下症(T4, TSHが反比例せず共に下がる)の既往症、及びPCOSがあります。
主治医の強い勧めで受精卵7個を全て3日目初期胚凍結しました(そのクリニックではPGT-A目的以外では胚盤胞にしていないとのことでした。)先月1回目の移植をホルモン補充周期にて行い、陰性でした。その際のプロトコルは以下の通りです。
・凍結胚・グレード1、3日目8分割の初期胚を解凍後、さらに2日間培養した胚を使用。写真は初期胚盤胞(ステージ1)の段階に見えるものでした。4/26:生理1日目。E2=33。採卵直後の周期。5/8:生理12日目。E2=68と低値のためエストラジオール補充開始(2mg×1日2回経口)。5/15:生理19日目。E2=116とまだ低値のため、服薬増加(2mg×1日3回内服+2mg×1日1回経膣)5/17:生理21日目。E2=688、「十分に上がったので」との判断により黄体補充開始。200mg錠を最初の4日は朝晩1錠ずつ、5日目は昼にも1錠追加で経口摂取。エストラジオール補充も投与量維持で継続。5/22:生理26日目。プロゲステロン投与後約114時間後に移植実施。服薬は同条件で継続。プロゲステロン投与開始後、移植実施までの間にE4及びP4血中濃度の測定はありませんでした。5/24:プロゲステロン錠は経口・経膣のいずれでも使用可(好きな方で使って良い)と言われていたが、眠気対策でこの日から経膣に変更。5/26:生理30日目。移植4日後に採血実施。E2=86.6、P4=9.8で、血中P4低値の判断でエストラジオール、プロゲステロン共に1日3錠から4錠に増量。さらに、オビドレル250mcgを皮下注射(内因性の黄体補充目的との説明)。6/1:生理36日目。採血、P4=12.5, hgc=23。3/2:生理37日目。採血、P4=7.8, hcg=11で陰性判定(血中hcgはオビドレル由来と判断)、服薬中止。
次回に向けて気に掛かっていることがあり、ご見解をお聞かせいただけますでしょうか。
1.胚盤胞移植について
同院では3日目に一度凍結した初期胚を移植前に5日目胚盤胞まで培養してから移植する方法を推奨しています。今回移植した胚は凍結時点では良好胚でしたが、5日目の移植時点では拡張前の初期胚盤胞の段階でした。受精後120時間経過していることを考えると成長が遅いように感じます。【質問1】凍結から回復して細胞分裂を再開するまでに時間がかかる、というようなことはあるのでしょうか。また、このやり方では移植時点でどの程度まで分裂が進んでいるか未知になってしまいます。【質問2】内膜が受容可能な時期とずれてしまわないのか心配ですが、胚盤胞のステージによりP4投与開始からの時間を調整する必要はないのでしょうか。
不明点が多く不安なため、胚盤胞になる前に成長が止まってしまうリスクを回避する意味でも、上記の次回は初期胚2個移植(グレード良好1+不良1)で依頼したいと考えております。主治医が前回同様のプロトコルを勧めてきた場合は、唯一の凍結胚盤胞(3日目時点で4分割で凍結できず、48時間経過観察したところ、途中から分割を再開し初期胚盤胞の状態で凍結したもの)を合わせての胚盤胞2個移植も検討しています(2個移植自体は米国では私の条件で可能です)。【質問3】初期胚の状態で移植するのではなく、体外で追加培養してから移植するプロトコルにメリットはあるのでしょうか。初期胚移植と胚盤胞移植、どちらを推奨なさいますか。(ちなみに同院は2段階移植には対応していません)
2.プロゲステロン補充について今回血中P4が低値だったことを受けて、以下の案を受けています。・次回は排卵周期(レトロゾールで排卵誘発、プレグニル10000単位でトリガー)により黄体由来のP4を誘導)・併せて、プロゲステロン筋注も使用。(経口、経膣投与で血中P4が十分上がらず、吸収不全の可能性があるためとの説明)
【質問4】前周期のオビドレル皮下注では結局そこまでP4が上がらず、ただ残余hcgの影響で着床したのかどうかの判断ができなくなってしまいました。加えて、PCOSのためプレグニルで排卵黄体ができる保証もありません(人工授精を試した際、同量のhcg投与でもP4上昇せず、エコーでの確認はありませんでしたが、未排卵の診断でした)。皮下注のみでP4が十分補えるならば無理に排卵周期を試みなくても良いのではと思うのですが、排卵させた方が良いのでしょうか。【質問5】同院は月水金の隔日でしか診察・施術が受けられないため、P4投与から胚移植までがどうしても120時間より6、7時間ほど短くなります。着床の窓への影響は許容可能な程度でしょうか。【質問6】前周期では移植前にP4値の測定がありませんでしたが、移植当日のP4の理想値などは存在しないのでしょうか。基準値がある場合、下回ると妊娠率はどの程度下がりますか。
長くなってしまい申し訳ございません。どうかよろしくお願い申し上げます。
高橋敬一院長からの回答
外国での不妊治療でご不安のことと思います。ここでは、一般論でのアドバイスになってしまいます。回答1)細胞分裂まで時間がかかることはあり得ます。しかし、この胚がそうであったかどうかは不明です。初期胚盤胞ならば確かにやや分割が遅いようですが、その時点で変更できる方法ではないようです。 回答2)胚のステージでP4開始からの時間調整は理論的にはあり得ますが、たぶん胚移植日をすぐに変更することは、今の方法では難しそうです。可能かどうか、その必要性があるかどうかはやはり担当医に確認される方が良いでしょう。その不安をsける目的で、初期胚移植はあり得る選択肢だと思います。2個の胚盤胞移植も十分あり得る選択肢です。 回答3)このプロトコルのデメリットは、胚盤胞にならない場合にはキャンセルとなる可能性が少なくないことです。あまり日本ではおこなわれていない方法で、メリットはすぐには思いつきません。PGT-A前提でしか胚盤胞移植をしない方針も日本とは異なるので、その施設の理由があるのかもしれませんね。膣剤を使用する場合には、血中P4はしばしば低値になりますが、それでも妊娠はします。今回は自然周期での移植のようですが、今回の記載では不明瞭な印象です。次回はレトロゾ-ルを使用した方が良さそうですね。 回答4)卵胞・排卵、黄体ができていたならばオビドレルを使用する意義はありますが、排卵がなかった場合にはオビドレルの使用意義はあまりありません。自然周囲の移植ならば排卵させる方が良いでしょう。 回答5) 着床への影響は6~7時間程度ではあまり影響ないと思いますが、不妊治療を月・水・金のみでおこなっていることもあり、不妊治療に強い施設との印象はありません。もし治療方針に疑問がある場合には、質問や要請を明確に伝えて、うまくいかない場合には別の施設への転院も考えて良いかもしれません。 回答6) 当クリニックでは自然周期でも排卵後に膣剤を十分量使用していますので、移植直前の血中のP4は測定していません。移植当日の検査をおこなう施設もありますが、日本では少数であり、必ずしも有用かどうかは明確ではないのです。 現状では、初期胚2個移植、または胚盤胞2個移植は、現実的な方法だと思いますよ。